2014年2月28日金曜日

Ⅱ-3 心的表象系

イメージは時間や場所に関係なく、心の中に思い浮かべることができます。どうとでも扱えます。
でも、何でそんなことができるのか?
これに突っ込む時のキーワード、それが「心的表象系」です。定義してしまえば「イメージ(観念や概念ではない、視覚的なもの)や映像を主体とした記号」といえるでしょう。
実は心理学の創始者ともいえるヴントの時代は「内観」という手法でこのあたりにアプローチしていました。つまり当時は意識化されたイメージを報告することが問題ではなかったのです。
しかし、ビュルツブルグ学派という一派から「思考過程は必ずしも意識化されるわけではない」という反論が起き、内観の妥当性に疑問を呈しました。さらに時代は突き進むと行動主義の時代になり、内観はおろか、イメージそのものがもうすでに科学的でない、という理由で(あってもフィクションだとされた)、学問として拒否されてしまい、イメージ研究は内観によらない研究法ができる1970年代まで、ほとんど扱われなくなってしまいました。
つまり、ある意味人間として当たり前な「イメージ」というものに心理学は100年以上の時間をかけているのです。そして、また、他の心理学分野と同様、まだちゃんとしたことをいえないのが、現状です。
なのでここでも、すらすらっと、今言えることを述べましょう。
問題の内観によらないイメージ研究を開発したのはペイビオという学者です。ペイビオは「ある対象が知覚され、記憶されるとき、心象化され、言語化される」として、研究ではまず伝統的な対連合学習を下に「具象性の高い(抽象性が低い)語同士は、具象性の低い(抽象性が高い)語同士よりは再生率が高い」という結果を見出しました。
しかしここでよくわからないものが1つありました。それは再生率の順が「具象性が高い同士→具象性の高い語と低い語のペア→具象性の低い語と高い語のペア」の順だったのです。ここでペイビオが考えたのが、イメージでした。
「ある単語が長期記憶の中にイメージとして保持される場合、それはより、よく記憶されるだろう」
ペイビオはそれを確かめようとして「自由再生法 method of free recall」という方法を使って研究を行いました。方法の説明は略すとして(重要ですけどね)結果を述べてしまうと、
「刺激としての絵は単語に比べてよく記憶される。また、具象性が高い語は低い語よりよく記憶される」
こういうことになりました。そこから「2重符号化仮説」という理論が生まれます。簡単に言ってしまえば、絵は覚える前にイメージ化されてしまい、具体的な言葉はイメージとともに言語的に記憶される、抽象的な言葉は言語的にのみ記憶される、という説です。イメージと言語の2重に符号化されるというところがポイントです。
知覚心理学の世界では、イメージがどのくらい知覚に干渉するか?ということをテーマの研究が行われています。「ブルックスの図形課題」とか「メンタルローテーション」とかがそういった例です。
ここで「マッカロー効果 McCollough effectというものを例に挙げましょう。下の動画を使って、実際に体験してみるがよし。ちょっと時間がかかりますが、不思議すぎて笑っちゃうかもしれませんよ!
1枚目の画像(黒一色の縦と横の線)、これをまず1分、じっと見てください。そしたら、2枚目(緑と黒の横線)が出ます。これも1分見ましょう。最後に3枚目が出ます。そのとき、びっくりするような何かが起こるはず!
[マッカロー効果!]↓クリックして拡大して見ることもできます

[マッカロー効果!]
……さて、ここから先はマッカロー効果を体験したものとして話を進めますね。実はこれが、イメージだけでも起こる、ということがわかって、イメージ研究の世界で大騒ぎになりました。
これを発表したのはコスリンという学者なのですが、彼によれば「イメージは一時的に視覚情報を貯蔵するところ」で、それが長期記憶からの情報を呼び出し、現実の知覚との間を調整するその機能も持っている、としています。
つまり、「イメージは一種のワーキングメモリーだ」というアイディアです。
コスリンはそれを「PET posititron emission tomography. 陽電子放射断層画像法」というものすごいでっかい、脳の活動状態を見る機械を使って確かめています(たまにテレビで見ますね)。もちろん、これに反対意見を持つ学者もいますが、かなりいい線いっているのではないか、と捉えている人が多いようです。
また、よく右半球はイメージをつかさどっている、なんていう話がありますが、それはあながちウソではないことがわかっています。1993年、菱谷氏が行った研究をちょっと引いてみましょう。
この研究ではまず被験者にある形を提示しました。そしてそのあと、被験者にそれを思い起こさせ、それと同時に右、あるいは左手でタッピング(指で叩く動作のこと)をさせました。つまり、タッピングが形を思い起こすのにどれだけ干渉するか、ということを見ようとしたわけです。
測定はさっきのPET。結果はこうなりました。
「高イメージ群では、左手をタッピングしたとき、イメージ生成に著しい干渉があった」
「低イメージ群では、右でも左でもあまりたいした効果はない(右のほうが干渉したときすらあった)」
知っている人も多いと思いますが、、動作系は右と左を反転して大脳半球に伝わります。
「もしイメージ生成が右半球の働きだとしたら、体の左側の動作が大きな干渉効果を持つと考えられる」
この実験はそれをある意味指示する結果を示しているといえるでしょう。

ということで、なんだか研究をずらずら並べただけになっておりますが、イメージ研究は最近のトピックであり、またいろんな機械(PETもそうだし、function MRIとかもそう)が登場している段階です。これからに要注目、といったところで、ここでは止めておきましょう。

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