知覚をへて入ってきたデータは、脳の中で処理されます。そして、必要に応じては、行動という形で結果を出したり、記憶をしたりします。
つまり、言葉や絵を見て何かを理解する、というのは過去の情報処理の結果なのです。
脳、という神経系で考えれば、感覚を受容し、それを中枢に送り、それを反応として返す、という一連の流れで話がつくかもしれませんが、実際はそうはいきません。
たとえば、ずいぶん前に見た車のナンバーを言うことができるでしょうか。意味不明な暗号を即座に覚えられるでしょうか。たぶん、無理だと思います。
これらには、情報処理の過程の中で、「必要なものには注意を向け、それ以外の無駄な情報はすぐに捨てる」という原則があるからでしょう。
これを証明するひとつの心理学的発見に、「カクテル・パーティー効果」と呼ばれるものがあります。これは、パーティーのように雑多に人が話をしていても、自分の聞きたい人のその話は逃すことなく聞くことができる、というものです。
もしも、すべての情報を処理していたら、回っている洗濯機の中から、間違えて入れた500円玉を拾い上げるかのように、聞きたい話が何かにまぎれてしまって、それだけを拾い出すことは出来ないでしょう。でも、「必要なものに注意を向け、それ以外のものは捨てる」という原則があるとすれば、可能かもしれません。
このように情報処理の過程では「注意」というのが重要なファクターとなります。
また、文字や図形という、ある種のパターンには意味がついています。「あ」なら、「あ」という図形的なパターンと共に、「あ」という日本語としての意味が結びつくわけです。
情報処理過程は、このような知覚的情報と知識情報を結びつける働きも必要です。
これらを踏まえて考え出された「情報処理過程」が次の図です
外からの情報が入るとまず、「感覚的情報ストレージ」に送られ、1/10秒程度保存されます。これはすべてのデータを取り入れたもので、ここから必要なものだけふるいにかけるわけです。
ふるいにかけられ残ったものは、「短期記憶情報ストレージ」に送られます。ここはコンピュータで言えばメモリで、内部で利用できる形にし、数秒程度保存するのがその役割です。ただ置いておけるのは「意味のまとまり」というちょっと特殊な単位で、7プラマイ2個程度ときわめて小さく、この「7」という数字は「Magic Number」と呼ばれます。
この、「意味のまとまり」という考えを使えば、11桁ある携帯電話の番号が覚えにくい理由を説明できます。
たとえば、「09012345678」という数字を「携帯の番号だ」と知らされずに見ると、「0」「9」「0」のように、一文字ずつそれを見ると思います。そうなると「意味のまとまり」が全部で11個出来てしまい、短期記憶の情報量を超えるため、覚えられません。
しかしこれを、090-1234-5678のようにハイフンで区切ると「090」「1234」「5678」のように3つの「意味のまとまり」に出来ます。これは情報量の範囲内なので覚えられるかもしれません。ここに、「これが必要な情報である」という注意が働けば、「無駄な情報」として捨てられることなく覚えられるでしょう。
つまり、携帯の番号を覚えるためには、「覚えやすくする」ということと「必要なものだ」という注意の2つが働かないといけないのです。このようなことは、長期的な記憶を明確に残すために行う維持リハーサルのときに、重要なことになるといわれています。
短期記憶ではこのほかにも、検索、比較、意思決定などの情報がとりおかれ、いわば、作業場として使われます。認知過程のすべてはここにあるといえるかもしれません。
さて、これら「感覚的」「短期記憶」の2つとも、普段意識の上にのぼることはありません。よって、「覚えた」「思い出した」という認識はありません。なので、普通の記憶感とはかなり異なるものといえます。
「短期記憶」を踏まえて送られるのが、「長期記憶ストレージ」で、いわば、ハードディスクです。必要なときにデータを短期記憶に送って、作業に使わせたりします。
この長期的な記憶は、「意味記憶」と呼ばれる文字や言葉、理解や判断といった一種のスクリプトなどと、「エピソード記憶」と呼ばれる過去の出来事に関するものに分かれます。
たとえば、秋の味覚といえばマツタケ、というのは意味記憶ですが、昨日の夕飯はマツタケ、はエピソード記憶、といった具合です。
このうち、「意味記憶」は無意識的かつ、非常に大量で、検索できなくなることはあっても、存在しなくなることはないとされています。
そして、「エピソード記憶」というのが、一般にいう記憶です。唯一、思い出していることを意識できるものとされています。
このように複雑な段階を経て、情報は処理され、記憶されたりするわけですが、これらすべてはあくまで仮説で、これが正しいかどうかはまだわかっていません。こういう風に考えると説明がつく、くらいに考えていただきたいと思います。
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